池田満寿夫の評価:池田満寿夫と芸術

池田満寿夫の評価

池田満寿夫の評価

 戦後から現代まで画家と称する人は幾人くらいいるだろうか。三十万人とも六十万人とも言われている。そもそも画家の世界は、「今日から芸術家」と言って通せる世界である。しかし、しっかりとした基礎デッサンカの上に創作し、かつ明確な自己概念に基づいて創作し、更に自己の体験を通した理念・哲学を持って創作している画家となるとおそらく二万人にも満たないのではなかろうか。更に、日本の美術界において美術品として画商界に安定的に流通している画家の数となると三百人前後ほどの数にまでなってしまう。更に、この三百人の中から後世に残る画家となると更に半数となり、その中でゴッホやピカソのように世界に通用する画家の数となると、おそらく五十人ほどにまで減ってしまう。更に、目本の枠を超えて世界で活躍した画家となると十人にも満たない数となってしまう。

 梅原龍三郎は日本を代表するトップ・アーチストであるが、世界的には無名画家である。残念ながらそれが現実である。

 その十人の画家の中で最も活躍した画家となると、実は池田満寿夫である。世界で最も権威ある展覧会のベネチア・ビエンナーレ展で大賞を取り、まさに世界を股に活躍した戦後を代表する画家なのである。

 この考え方を野球に置き換えるとわかりやすい。日本中の野球人を画家の数と同じと仮定して、プロに通用する実力を持つ選手はおそらく二万人ほどであろう。更にプロ野球選手は三百人前後、更に世界に通用する選手となると五十人前後にまで数は減ってしまう。更にアメリカ・メジャーで活躍できる選手の数となるとおそらく十人にも満たない数となってしまう。イチロー、ダルビッシュ、松井秀喜、田中将大、他には?である。

 野球を例にたとえると池田満寿夫の活躍が見えてくる。しかし、池田満寿夫の評価は日本国内においてはきわめて低い。その原因の一つに、池田芸術に貫かれたテーマ「エロス」が日本人の中に受け入れられていないからである。棟方志功人気とは両極端となっている。一方は東洋美人・観音であるのに対して、池田は「ワイセツ」である。芸術は美の意味において公平な評価であるべきであるが、一般美術愛好家が壁掛け装飾美術から脱し得ないことが池田満寿夫評価の低迷に繋がっている。芸術性において池田芸術は棟方芸術と同等か、もしくはそれ以上の評価がなされて当然である。しかし、残念なことに、今現在、池田満寿夫作品の評価は棟方志功の3分のIである。

 時代は必ず追い付いてくる。ゴッホやピカソの評価が五十年、百年を必要としたようにいつの日か必ず池田芸術の真価が問われる時代が間違いなくやってくるのである。

 テレビの「なんでも鑑定団」、あの番組は人々に美術の価値を認識させてくれる良い切っ掛けとなった番組である。昨年、藤田嗣治の油絵が三千万円、長谷川利行の油絵が千八百万円、今年、棟方志功の色紙が百万円と評価された。まさしく客観的評価である。このような客観的評価は池田芸術に対しても同等の評価がついてしかるべきである。時代は必ず追い付いてくる。私はそう確信している。

 問題は誰が評価したかである。中学の美術教師か、ローカル・ビッグアーチストの審査員か。日本の烏合の評論家か。誰が如何なる基準で審査したか、それが問題である。ヴィル・グローマン、ウィリアム・S・リーバーマン、吉田秀和、瀬木偏一、この四人の評論はいずれも世界の美術界をりIドし、日本の美術界をりIドし、美術の歴史を築いた人物であり、同時に四人は真眼の持ち主である。

 池田満寿夫の芸術はこの四人の支持によって世界に認められたのである。特筆すべきは吉田秀和である。ストラヴィンスキーの訃報時に彼はこう辛口のコメントをした。「世界の大作曲家の死に彼ほど人々に惜しまれずして世を去る人は珍しい」。更に、高齢となった世界的ピアニストのルビンシュタインが日本でコンサートを問いた時、絶賛の嵐の中、吉田氏は「まるで木琴を聴いているようだった」と扱き下ろした。歯に衣を着せぬ評論をする吉田秀和は、私にとって神のような存在である。客観的にして公平、洞察力は深くして純粋、真眼は狂いなく、私の尊敬する評論家である。池田満寿夫はそういった世界の、日本の、名実ともに権威を持った、美的哲学者によって評価された唯一のビッグ・アーチストなのである。


=二流半の老画家の独り言=

池田満寿夫と芸術

真島良範著

池田満寿夫及びそのファンに捧げる

・まえがき
池田満寿夫の評価
女性と創作
・素描の発見
・素描の魅力
・私の販売目的
・池田満寿夫との出会い
・池田満寿夫の圃収蔵
・マルチ・アーチスト
・エロスの画家
・美術と芸術
・コレクション
・美術の誤作動
・根のない巨木
・ナンチャッテ・アーチスト
・美術は手品のトリック
・炎
・美の分類
・芸術家の主題
・結論
・あとがき

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